※「こども基本(きほん)法(ほう)」は令和(れいわ)4年(ねん)6月(がつ)15日(にち)に国会(こっかい)で可決(かけつ)成立(せいりつ)し、令和(れいわ)5年(ねん)4月(がつ)1日(にち)に施行(しこう)されました。
こども家庭(かてい)庁(ちょう) 『こども基本(きほん)法(ほう)』
少子化(しょうしか)が進(すす)み子(こ)どもの総数(そうすう)が減少(げんしょう)している日本(にほん)ですが、児童(じどう)虐待(ぎゃくたい)通報(つうほう)は急増(きゅうぞう)し、いじめ、自殺(じさつ)、不(ふ)登校(とうこう)の深刻(しんこく)化(か)など、子(こ)どもが生(い)きづらい世(よ)の中(なか)になっています。にもかかわらず、日本(にほん)には子(こ)どもに関(かか)わるあらゆる場面(ばめん)で、子(こ)どもの権利(けんり)が守(まも)られるべきと定(さだ)める基本(きほん)の法律(ほうりつ)がありません。日本(にほん)は子(こ)どもの権利(けんり)が守(まも)られているとは言(い)いがたい現状(げんじょう)なのです。
こども基本(きほん)法(ほう)という国内(こくない)法(ほう)制定(せいてい)をめざす話(はなし)の前(まえ)に、国際(こくさい)条約(じょうやく)である「子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)」についておさらいいたします。「児童(じどう)の権利(けんり)に関(かん)する条約(じょうやく)(子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく))」は、子(こ)どもの基本的人権(きほんてきじんけん)を国際(こくさい)的(てき)に保障(ほしょう)するために定(さだ)められました。18歳(さい)未満(みまん)の子(こ)どもを「権利(けんり)をもつ主体(しゅたい)」と位置(いち)づけ、大人(おとな)と同(おな)じ一人(ひとり)の人間(にんげん)としての人権(じんけん)を認(みと)める、成長(せいちょう)の過程(かてい)で特別(とくべつ)な保護(ほご)や配慮(はいりょ)が必要(ひつよう)な権利(けんり)も定(さだ)めています。
※公益財団法人(こうえきざいだんほうじん)日本(にほん)ユニセフ協会(きょうかい)子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)より
子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)は、1989年(ねん)の第(だい)44回(かい)国連(こくれん)総会(そうかい)において採択(さいたく)され、1990年(ねん)に発効(はっこう)。日本(にほん)は1994年(ねん)に批准(ひじゅん)しました。しかし、日本(にほん)国内(こくない)で同(どう)条約(じょうやく)を「内容(ないよう)までよく知(し)っている」と答(こた)えたのは、子(こ)ども8.9%、大人(おとな)2.2%に過(す)ぎず、「聞(き)いたことがない」という回答(かいとう)は、子(こ)ども31.5%、大人(おとな)42.9%でした。保育(ほいく)や教育(きょういく)の専門(せんもん)職(しょく)ですら、子(こ)どもの権利(けんり)を認識(にんしき)していないという現状(げんじょう)があります。
日本(にほん)における子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)の認知(にんち)度(ど)(PDF)
※セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの調査(ちょうさ)より
日本(にほん)が1994年(ねん)に子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)を批准(ひじゅん)した際(さい)、日本(にほん)政府(せいふ)は現行(げんこう)法(ほう)で子(こ)どもの権利(けんり)は守(まも)られているとの立場(たちば)を取(と)り、国内(こくない)法(ほう)の整備(せいび)が行(おこな)われませんでした。そのため、日本(にほん)には「児童福祉法(じどうふくしほう)」「母子(ぼし)保健(ほけん)法(ほう)」「教育基本法(きょういくきほんほう)」「少年(しょうねん)法(ほう)」「児童虐待防止法(じどうぎゃくたいぼうしほう)」「子(こ)どもの貧困(ひんこん)対策(たいさく)推進(すいしん)法(ほう)」「成育(せいいく)基本(きほん)法(ほう)」など子(こ)どもに関(かか)わる様々(さまざま)な個別(こべつ)の法律(ほうりつ)はありますが、子(こ)どもを権利(けんり)の主体(しゅたい)として位置(いち)づけ、その権利(けんり)を保障(ほしょう)する総合(そうごう)的(てき)な法律(ほうりつ)が存在(そんざい)しません。2016年(ねん)の児童福祉法(じどうふくしほう)改正(かいせい)で、その理念(りねん)に「児童(じどう)の権利(けんり)に関(かん)する条約(じょうやく)の精神(せいしん)にのっとり」と書(か)かれ、「児童(じどう)の年齢(ねんれい)及(およ)び発達(はったつ)の程度(ていど)に応(おう)じて、その意見(いけん)が尊重(そんちょう)され、その最善(さいぜん)の利益(りえき)が優先(ゆうせん)して考慮(こうりょ)される」と明記(めいき)されたことは画期的(かっきてき)であり、他(た)にも「子(こ)どもの貧困(ひんこん)対策(たいさく)推進(すいしん)法(ほう)」や「成育(せいいく)基本(きほん)法(ほう)」などの一部(いちぶ)の法律(ほうりつ)で、子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)について触(ふ)れています。しかし、児童福祉法(じどうふくしほう)は福祉(ふくし)分野(ぶんや)の法律(ほうりつ)であり、教育(きょういく)や司法(しほう)の分野(ぶんや)に及(およ)ぶものではありません。子(こ)どもの権利(けんり)侵害(しんがい)に関(かん)する裁判(さいばん)においても子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)を基盤(きばん)とした判例(はんれい)はなく、国内(こくない)法(ほう)に定(さだ)められていない影響(えいきょう)が大(おお)きいといえます。 子(こ)どもをめぐる問題(もんだい)を抜本的(ばっぽんてき)に解決(かいけつ)し、養育(よういく)、教育(きょういく)、保健(ほけん)、医療(いりょう)、福祉(ふくし)等(とう)の子(こ)どもの権利(けんり)施策(しさく)を幅広(はばひろ)く、整合(せいごう)性(せい)をもって実施(じっし)するには、子(こ)どもの権利(けんり)に関(かん)する国(くに)の基本(きほん)方針(ほうしん)、理念(りねん)及(およ)び子(こ)どもの権利(けんり)保障(ほしょう)のための原理(げんり)原則(げんそく)が定(さだ)められる必要(ひつよう)があります。そのためには、憲法(けんぽう)及(およ)び国際(こくさい)法(ほう)上(じょう)認(みと)められる子(こ)どもの権利(けんり)を、包括的(ほうかつてき)に保障(ほしょう)する「基本(きほん)法(ほう)」という法(ほう)形式(けいしき)が必要(ひつよう)なのです。
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先進(せんしん)的(てき)な地方自治体(ちほうじちたい)では、兵庫(ひょうご)県(けん)の川西(かわにし)市(し)や川崎(かわさき)市(し)など、子(こ)どもの権利(けんり)に関(かん)する総合(そうごう)条例(じょうれい)を独自(どくじ)に定(さだ)めていたり、さらにそこから地方自治法(ちほうじちほう)を用(もち)いて子(こ)どもの権利(けんり)擁護(ようご)機関(きかん)を設置(せっち)する動(うご)きもあります。ただしそうした自治体(じちたい)は、約(やく)1,700あるうち40程度(ていど)に留(とど)まります。先進(せんしん)的(てき)な自治体(じちたい)をロールモデルとして推進(すいしん)する必要(ひつよう)はありますが、すべての子(こ)どもに普遍(ふへん)的(てき)な権利(けんり)であるにもかかわらず、住(す)む地域(ちいき)によって格差(かくさ)が生(しょう)じている問題(もんだい)があります。子(こ)どもの権利(けんり)について、国(くに)レベルでの法(ほう)整備(せいび)が急務(きゅうむ)です。
基本(きほん)法(ほう)とは「国政(こくせい)に重要(じゅうよう)なウエイトを占(し)める分野(ぶんや)についての国(くに)の制度(せいど)、政策(せいさく)、対策(たいさく)に関(かん)する基本(きほん)方針(ほうしん)・原則(げんそく)・準則(じゅんそく)・大綱(たいこう)を明示(めいじ)するもの」です。例(たと)えば、日本(にほん)では障害者(しょうがいしゃ)の権利(けんり)には「障害者(しょうがいしゃ)基本(きほん)法(ほう)」、女性(じょせい)の権利(けんり)には「男女共同参画社会基本法(だんじょきょうどうさんかくしゃかいきほんほう)」があります。これらの基本(きほん)法(ほう)では、障害者(しょうがいしゃ)や男女(だんじょ)の人権(じんけん)の尊重(そんちょう)、国(くに)や地方公共団体(ちほうこうきょうだんたい)の責務(せきむ)、基本(きほん)計画(けいかく)の作成(さくせい)、法制(ほうせい)上(じょう)・財政(ざいせい)上(じょう)の措置(そち)、年次(ねんじ)報告(ほうこく)の国会(こっかい)への提出(ていしゅつ)等(とう)が定(さだ)められています。しかし子(こ)どもについては、子(こ)どもの包括(ほうかつ)的(てき)な権利(けんり)や国(くに)の基本(きほん)方針(ほうしん)を定(さだ)めた基本(きほん)法(ほう)が存在(そんざい)しておらず、子(こ)ども政策(せいさく)が後回(あとまわ)しにされる一因(いちいん)となっています。子(こ)どもを社会(しゃかい)の中心(ちゅうしん)に据(す)え、常(つね)に子(こ)どもの最善(さいぜん)の利益(りえき)を優先(ゆうせん)して考(かんが)える社会(しゃかい)にしていくために、一(いち)日(にち)も早(はや)い子(こ)ども基本(きほん)法(ほう)の制定(せいてい)が求(もと)められています。
障害者(しょうがいしゃ)の権利(けんり)・男女(だんじょ)の権利(けんり)・子(こ)どもの権利(けんり)(PDF) ※子(こ)どもの権利(けんり)については基本(きほん)法(ほう)が存在(そんざい)していない
こども基本(きほん)法(ほう)の柱(はしら)建(だ)て試案(しあん)(1):理念(りねん)と責務(せきむ) こども基本(きほん)法(ほう)では、「こども」を冠(かん)する基本(きほん)法(ほう)として、名実(めいじつ)ともに子(こ)どもが中心(ちゅうしん)に据(す)えられた法律(ほうりつ)としています。そこでは、子(こ)どもはその発達(はったつ)上(じょう)の状態(じょうたい)ゆえに特(とく)に人権(じんけん)侵害(しんがい)を受(う)けやすい特性(とくせい)を考慮(こうりょ)し、個々(ここ)の子(こ)どもの年齢(ねんれい)や発達(はったつ)の状況(じょうきょう)を十分(じゅうぶん)踏(ふ)まえつつ、子(こ)どもを権利(けんり)の主体(しゅたい)として捉(とら)え、子(こ)どもの権利(けんり)条約(じょうやく)の一般(いっぱん)原則(げんそく)をはじめとした子(こ)どもの諸(しょ)権利(けんり)を社会(しゃかい)全体(ぜんたい)で遵守(じゅんしゅ)する必要性(ひつようせい)を明記(めいき)します。 基本(きほん)法(ほう)の柱(はしら)建(だ)て試案(しあん)(2):基本(きほん)的(てき)施策(しさく) 国(くに)で子(こ)どもの権利(けんり)の推進(すいしん)に向(む)けた年間(ねんかん)計画(けいかく)を策定(さくてい)します。また、子(こ)どもの権利(けんり)を中心(ちゅうしん)として省庁(しょうちょう)横断(おうだん)的(てき)に整理(せいり)・調整(ちょうせい)するため、国(くに)に「子(こ)ども総合(そうごう)政策(せいさく)本部(ほんぶ)(仮称(かしょう))」を設置(せっち)し、前述(ぜんじゅつ)の年間(ねんかん)計画(けいかく)を行政(ぎょうせい)内(ない)から総合的(そうごうてき)に調整(ちょうせい)し各(かく)省庁(しょうちょう)・部局(ぶきょく)の政策(せいさく)の改善(かいぜん)促進(そくしん)を牽引(けんいん)します。また、正確(せいかく)な現状(げんじょう)把握(はあく)や予防(よぼう)的(てき)政策(せいさく)による積極的(せっきょくてき)な権利(けんり)保障(ほしょう)の実現(じつげん)のため、省庁(しょうちょう)横断(おうだん)データベース等(とう)の調査(ちょうさ)研究(けんきゅう)基盤(きばん)を整備(せいび)します。 基本(きほん)法(ほう)の柱(はしら)建(だ)て試案(しあん)(3):「(仮称(かしょう))子(こ)どもコミッショナー」の設置(せっち) 現在(げんざい)、日本(にほん)の一部(いちぶ)の自治体(じちたい)で子(こ)どもオンブズパーソンや子(こ)どもの権利(けんり)委員会(いいんかい)など、子(こ)どものSOSを受(う)け止(と)めて解決(かいけつ)をはかる取(と)り組(く)みが実施(じっし)されています。しかし子(こ)どもの権利(けんり)保障(ほしょう)に特化(とっか)した国(くに)レベルの独立(どくりつ)した子(こ)どもの権利(けんり)擁護(ようご)機関(きかん)((仮称(かしょう))子(こ)どもコミッショナー)は存在(そんざい)しません。子(こ)どもは自(みずか)らがその権利(けんり)侵害(しんがい)を訴(うった)えることが難(むずか)しく、弱(よわ)い立場(たちば)にあるため、子(こ)ども基本(きほん)法(ほう)によって、子(こ)どもの権利(けんり)を守(まも)ることに特化(とっか)した「(仮称(かしょう))子(こ)どもコミッショナー」を設置(せっち)します。子(こ)どもコミッショナーに重要(じゅうよう)なのは組織(そしき)運営(うんえい)及(およ)び活動(かつどう)における独立(どくりつ)性(せい)であるため、政府(せいふ)の外局(がいきょく)として置(お)かれる合議制(ごうぎせい)の行政委員会(ぎょうせいいいんかい)としての設置(せっち)を目指(めざ)します。
子(こ)ども基本(きほん)法(ほう)条項(じょうこう)案(あん)(PDF)
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